投票前日のNHK選挙特集への違和感 – Yahoo!ニュース 個人

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総選挙前日のNHK番組に感じた「不自然さ」と「違和感」

 先週末に成城大学を会場として行われた日本マス・コミュニケーション学会(マスコミ学会)では、急に行われて自民党の圧勝という結果になった衆議院選挙が多くの研究者たちの話題になった。

 そのなかで何人かの研究者が悪い意味で話題に上った選挙関連番組がある。

 それは10月21日(土)午後9時からNHK総合テレビで放送された

「衆院選特集『党首奮戦~密着 12日間の熱戦~』

という1時間10分間の番組だ。

 研究者になる前はテレビ局で働いた経験がある大学教授たちが首をひねっていた。「投票の前日にあそこまで各党の露出で差があっていいものか?」「もし民放だったら、と考えるとアウトだ。放送できない」「公共放送としてのあり方をNHKはどう考えているのだろう?」。日頃、メディアを研究し、新聞やテレビなどの報道をチェックしている人たちが違和感を持った放送だったことは間違いない。

 

 タイトルにある通り、衆議院選挙での党首たちの奮戦ぶりを密着取材した映像をまとめたVTR構成の番組だった。それぞれの党首たちの遊説風景や遊説の合間に車中などでインタビューに答えた映像が次々に登場する。

 違和感の一つ一つを列記していこう。

NHK番組に感じた違和感その1

自民党だけ露出時間が相当に長い!

 安倍首相が話している場面を中心にした自民党のシーンは、各政党中でもっとも長くてトータル23分48秒。その次の小池百合子代表が率いる希望の党は12分25秒。公明党は9分13秒。共産党は7分9秒。枝野幸男代表が率いる立憲民主党は6分13秒。日本維新の会が6分8秒。社民党が4分5秒。日本のこころが2分9秒

 もちろん、選挙報道で求められるべき公平性は、数量的な、時間的な公平性ではない。

 そのことはBPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会も昨年、異例の「意見書」を出して念押ししている。

選挙報道の公平性、量で判断せず BPOが初見解(日経新聞)

放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は7日、テレビの選挙報道について「編集の自由が保障されている以上は、求められているのは出演者数や露出時間などの量的公平性ではない」とし、政治的公平性は報道の「質」で保つべきだとする意見書を公表した。BPOが選挙報道全般に対して考えを示すのは初めて。

出典:日本経済新聞 2017年2月7日付

 くわしくはBPOが出した意見書をよく読んでほしい。

委員会は、「政治的に公平であること」などを定めている放送法第4条第1項各号の番組編集準則は「倫理規範」だとした上で、放送局には「選挙に関する報道と評論の自由」があり、テレビ放送の選挙に関する報道と評論に求められているのは「量的公平」ではなく、政策の内容や問題点など有権者の選択に必要な情報を伝えるために、取材で知り得た事実を偏りなく報道し、明確な論拠に基づく評論をするという「質的公平」だと指摘した。

この観点からすると、真の争点に焦点を合わせて、各政党・立候補者の主張の違いとその評価を浮き彫りにする挑戦的な番組が目立たないことは残念と言わざるをえないとして、「放送局の創意工夫によって、量においても質においても豊かな選挙に関する報道と評論がなされる」ことを期待した。

出典:BPO 放送倫理検証委員会決定(2017年2月7日)

 必ずしも「量的公平」ではなく「質的公平」を意識せよというのがBPOとして放送局に求めている。

 確かに「量的公平」が重要ではないので、放送が自民党に厚いものになったとしても直ちにそのことだけで目くじらを立てる問題ではないだろう。しかし、NHKのおの番組は「質的な公平」ではどうだったのか。はたしてBPOのいう「挑戦的な番組」だったのか。

 この意見書の趣旨を考えてみても、このNHK番組の自民党への偏りは違和感があるものだった、という声が筆者の周辺では多く聞かれたことは事実だ。「それにしても自民党だけ、安倍首相だけ、あれだけ長くしてもいいのだろうか? 質的な公平性は保たれたのだろうか?」と。

 

NHK番組に感じた違和感その2

首相としての業務の場面と党首としての場面を区別せず使用!

 首相としての安倍晋三と自民党総裁としての安倍晋三。総理大臣はこの「2つの顔」を持っている。 

 特に選挙になって、選挙関係の報道をする時には、あくまで党首=自民党総裁としての顔の部分として区分けをしないと何が何なのかわけがわからないものになってしまう。それはテレビ報道のルールのひとつだ。

 選挙戦について、報道する時に安倍首相が登場した場合でも、あくまで党首として、他の政党の党首と区別・差別がないように扱う。

 テレビにはそういう原則があるのだが、実際には台風が来たり、隣国からミサイルが飛んできたり、外国の要人がやってきたり、と「首相」としての顔も選挙期間中であっても露出することになる。その場合、あくまで党総裁ではなく、首相としての「顔」なのだということを強調しながら報道するのは通常はどこの局もやっていることだ。

 一般の視聴者は意外に思うかもしれないが、民放ではこのあたりの区別は日頃から比較的しっかり意識しながら、扱っている。

  

 たまたま昨年の参議院選挙の際に民放各局が自民党の政党CMについて民放の姿勢が明確になった。自民党側が政党CMの映像に挿入していたG7東京サミットで首脳同士が談笑している画像やオバマ前大統領の広島訪問画像の使用に民放各局が難色を示し、けっきょくサミットの画像を使わない形で政党CMは放送された。

 公職選挙法に抵触する可能性を配慮した措置だった。

 このあたりの経緯は、リテラが詳しく報じている。

繰り返すが、各放送局の政党CMの考査は、公職選挙法と日本民間放送連盟の指針に基づいた各局の内規で決められるものだ。それは、放送の独立を考える上でも、とくに公権力からは厳密に距離をとらなければならないからである。

出典:LITERE 2016.6.21

 この時に民放各局が難色を示し、自民党の要望にもかかわらず、結局、挿入することができなかったサミットなどの画像は以下のものだ、ネット上ではこれを入れたバージョンの自民党CMを見ることができる。

16年参院選の自民党CMで、テレビでは割愛された画像
16年参院選の自民党CMで、テレビでは割愛された画像

 参院選では放送されなかった自民党CMの画像の部分(ネット上ではこの画像を入れた形でアップされた)。

 この時に、民放各局がサミット画像を拒否した基準に立てば、今回のNHKの前日番組も民放では「アウト」ということになるだろう。

 ところが今回の総選挙で投票前日に放送された番組では、安倍晋三首相の自民党総裁としての活動を紹介する冒頭の場面で、首相公邸での安倍首相と官邸スタッフ(防衛省、外務省などから出向している官僚)が日本地図を見ながら会話する生々しいやりとりが披露されている。

NHKが投票前日の特集番組で放送した場面
NHKが投票前日の特集番組で放送した場面

安倍首相:北朝鮮情勢はどうですか?

防衛官僚:特段のところ変化はございません。

ナレーション:この日は朝鮮労働党の創立記念日。北朝鮮の最新の情勢を確認していました。

防衛官僚:北海道南部。それから北が名指しをした中国、四国地方を含めて、パトリオット(ミサイル)部隊を全国に展開しております。日本海にはイージス艦も展開中です。

安倍首相:今後も引き続き、緊張感を持って警戒を維持してもらいたいと思います。

NHKが投票前日に放送した特集番組
NHKが投票前日に放送した特集番組

 内容からして明らかにこれは内閣総理大臣(首相)としての業務を行っている場面だ。けっして党首としての業務ではない。

 党首(自民党総裁)としての選挙選での活動を紹介する番組。しかも投票前日の放送で、総理大臣としての仕事を紹介する。はたしてこの放送が適切なのか。私を含めて少なくない研究者たちが首を傾げた。

NHK番組に感じた違和感その3

安倍首相個人のヨイショが随所に!

 番組内で紹介されていたエピソードの中には、安倍首相が自分の愛読書として、イギリスのチャーチル元首相の伝記について語っているくだりがあった。本を紹介したうえで安倍首相に以下のように言わせている。

ナレーション:安倍総裁が大切にしている本があります。

安倍首相:チャーチルの伝記でして、彼はネバー・ディスペアー、決してあきらめなかった。

ナレーション:一度政権を失った後も政治信念を貫き、再び政権を手に入れたイギリスのチャーチル元首相。その言葉を胸に刻んできたといいます。

 ちなみに番組内では、安倍総裁の代理として地元で遊説に歩く昭恵夫人と首相が電話でやりとりする場面も登場する。

 その後で昭恵夫人について安倍氏はこう語っている。

「率直に昭恵も言いたいことも言いますから。ま、でもこういう時には本当に夫婦で一緒になってがんばる、そういう同志でもありますね」

 こうした数々の場面は、民放のニュースなどにはまったく登場しなかったもので、NHKと首相との距離感がとても近いことを視聴者に伝えていた。

 これは2012年12月に安倍首相が政権のカムバックした直後にTBS「情報7Days ニュースキャスター」が放送した番組によく似た内容だった。このTBSの放送についてほとんど批判精神が見られず、首相のヨイショに終始していため、私はネット記事で以前「ヨイショ番組」だとして辛辣な記事を書いたが、今回のNHKは投票前日の9時という多くの視聴者が見ている時間帯におおっぴらにやっていた点でより罪深いといえる。まるでCMとして作ったような番組だった。

 民放のCMの考査で、民放の基準では「アウト」と判断されるような場面が、NHKの番組としてはなぜ問題にならなかったのだろうか。

 この点は理解に苦しむ。

 公共放送であるNHKは、民放以上に政治的な公平には、本来、もっとデリケートであるべきではないのか。

 私はそう考える。

 NHKが持つ公共性とはいったい何なのか。

 

もっと建設的な議論を進めるためにも、この投票前日番組はもっと検証されるべきだと思う。

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