AUSメディア・ウォッチ「不倫スキャンダルと#MeToo」 – 日豪プレス

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オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞を始め、テレビ、ラジオ、オンライン・メディア、映画、書籍などで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第31回:不倫スキャンダルと#MeToo

「既婚または独身にかかわらず、閣僚は部下と性的関係を持ってはならない」

オーストラリアの首相が2月15日、こんな異例の禁止令を発表した。副首相だったバーナビー・ジョイス氏の不倫問題を受けて、閣僚の行動規範を変更したのだ。

ソーシャル・メディアでは「#BonkBan」というハッシュタグ付きで皮肉交じりの投稿が多く見られた。Bonkとは性行為を意味する俗語。こんなハッシュタグの広がりに、人びとの冷めた視線がうかがえる。

豪州では珍しい不倫スキャンダル

政治家を辞任に追い込むほどの不倫スキャンダルはオーストラリアでは珍しい
政治家を辞任に追い込むほどの不倫スキャンダルはオーストラリアでは珍しい

そもそも事の始まりは2月7日、デイリー・テレグラフ紙の1面にジョイス氏との子どもを妊娠した元メディア顧問、ビッキー・キャンピオン氏の写真が掲載されたことだった(後にジョイス氏は、本当に自分の子かどうかは「グレー・エリア」と発言)。これがきっかけとなって24年間連れ添った妻と4人の娘がいるジョイス氏の不倫が明るみになり、ジョイス氏は副首相及び国民党党首を辞任することになった。

どこの国にもある不倫スキャンダル。日本でも、宮崎謙介元衆院議員や山尾志桜里議員の不倫をめぐる報道が加熱したことは記憶に新しい。

個人のプライベートにはあまり首を突っ込まないオーストラリアで、今回のように不倫が騒がれることは珍しい。国民が気にしていたのは、本当に不倫だったのだろうか。

ガーディアン紙(電子版:18年2月27日)の調査によると、ジョイス氏の性的関係を問題とした人は23パーセントにすぎず、多くの人はそれに関わる不正疑惑を問題視していた。2人の住居が無料で提供されていたことを問題とする人は45パーセント、キャンピオン氏が他の議員事務所で特別に雇われていたことを問題視する人は50パーセント、旅行手当が不適切に使用されていたことを問題とする人は60パーセントだった。

見当違いの#BonkBan

メディアでも「ジョイス氏のプライベートはどうでも良い」という姿勢が主流だった。

シドニー・モーニング・ヘラルド紙(同年2月17、18日)の社説は、住居が無料で提供されていたことやキャンピオン氏が雇用面で厚遇されていたことは問題だとしながらも、「首相を含めいかなる外部者も、人の結婚生活に口を出すべきではない」と述べている。

オーストラリアン紙(同年2月15日)の社説も、不倫はジョイス氏とその家族、パートナーの問題だが、キャンピオン氏が正当なプロセスを経て議員事務所に雇われていたかどうかについては、国民は知る権利があるとしている。

そんな中マルコム・ターンブル首相が打ち出した見当違いの禁止令に対し、各界からは、「カメラのレンズを他人の寝室に向けるような国なのか」(労働党副党首)「合意に基づいた関係を禁止するのは不適切」(KPMG会長)「職場恋愛を禁止したところで性的不品行の問題は解決しない」(QUT教授)などの声が聞かれた。

首相の決断が正しかったかどうかは別として、その背景に世界的な#MeTooの流れがあったことは否めない。セクシャル・ハラスメントに対して声を上げる動きが広がる中、何らかの対応をせざるを得なかったということなのだろうか(ジョイス氏の場合は同意に基づく不倫なので、セクハラではないのだが)。

首相の発表を受けて首相内閣省のマーティン・パーキンソン長官も、政府機関内の恋愛関係を開示する義務を今後強化していく可能性を示した。

「重要なのは、職場における(恋愛)関係、そしてそれが同意に基づいたものなのか、または上下関係・ハラスメント・いじめに起因するものなのかということです」(オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー紙、電子版:同年3月2日)

国内の多くの民間企業では既に、透明性を高めるため、「利益相反(conflict of interest)」が起こり得る恋愛関係は自主的に開示することが求められている。

#MeTooの流れの中で

さまざまな要素を含んでいた今回のスキャンダル。不倫の裏には閣僚の地位を利用した不正疑惑があり、スキャンダルはまた、#MeTooをめぐる議論へと発展していった。

いかなる職場でも、ハラスメントや利益相反を防ぐために行動規範を設け、透明性を高めることは必要だろう。

しかし、シドニー・モーニング・ヘラルド紙(電子版:同年3月1日)のジャックリーン・メイリー氏は、#MeTooの動きによって始まった「過激な透明性」についても指摘している。政治家のプライベートにニュース価値が付いたことで、そこに踏み込んでも良いという認識ができてしまったという。

同紙(同年3月3、4日)のピーター・ハーチャー氏は、今回のスキャンダルの犠牲者はジョイス氏の別れた妻であり、4人の娘たちであり、新しいパートナーだという。「彼女たちのプライバシーはなくなり、人生は揺さぶられてしまった」

#MeTooの流れの中で、結局「沈黙の犠牲者」になったのが女性だったというのはあまりにも皮肉だ。


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton

米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: twitter.com/HirokoKClayton

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